ちくほくのひとVol.01嶋田幸夫さん

怖かった山暮らしも、いまでは宝の山。
やりたいことが盛りだくさん

お話を伺うために嶋田さんのご自宅に訪問し、まず最初に案内されたのは畑だった。「2トントラックでも通れる道だから大丈夫」というので軽トラックの後ろをついていくと、コンパクトカーでもドキドキするような細い道。一度では曲がりきれないカーブを曲がると、そこは山々に守られるように囲まれた、見渡すかぎりの畑だった。2015年の4月にスタートした、筑北村の土地や気候を生かして雑穀類の栽培・研究を行う『信州筑北 雑穀ファーム』というグループの拠点となる場所だ。「この場所、最高でしょ?」と嶋田さんは誇らしげに微笑む。

嶋田さんが住み、農業を営んでいる筑北村坂北地域細田集落は、村内でも住民のまとまりがよい地域として知られている。ご自身の田畑だけでなく、田んぼのオーナー制度を実施して村外からも人を集めたり、嶋田さんが中心となってイベントを盛んに行ったりしていることが、コミュニケーションを盛んにする要因のひとつなのかもしれない。
いまでは筑北村に移住してきた人たちに農業を教える指南役だが、その嶋田さん自身、移住者だという。チームでの活動やご自身の農業について、また、筑北村に移住することになった理由や今後の展望をお聞きした。

[ 2016年3月31日更新 ]


初めての山暮らし、初めての農業。恐怖はいつしか喜びに

筑北村へ来たのは、だいたい30年くらい前です。移住のきっかけは奥さんの両親の実家に誰もいなくなってしまったから。筑北村には遊びに来たことはあったけれど、海のそばで育ったから、山暮らしには少し怖さがありましたね。
自分が百姓になることは考えていませんでしたが、移住して養鶏・卵販売を行いながら兼業で少し農業をはじめました。奥さんの兄が農業をしていたので教えてもらいながら。それが今では、農業をやりすぎていて家族に怒られるくらいです(笑)。自分ひとりではやりきれないから手伝ってもらって……家族に迷惑かけていますよ。今は家族7人、三世帯が一緒に暮らしています。

本格的に農業を開始したのは、12年前の定年後です。始めたころは、インターネットで販路を開拓していてだまされたこともありました。100キロの注文があって、喜んでお米を送ったのに入金されなくて。いろいろ勉強させてもらいましたよ。今では口コミで常連のお客さまができたので、商品が不足するほどになりました。だからインターネットでの販売はしていません。

一番の自慢はお米です。甘くて粘り気があり、冷めてもおいしい。お弁当にもぴったりのお米です。どの農家さんも自分の家のお米が一番だ!と思っているから当たり前かもしれませんが、みなさんにおいしいと言っていただけるので自画自賛ではないと思っています。対面販売をすると、開始前から販売スペースでお客さまが待っていてくれることもあって。自分で作ったものを「おいしかった」といわれると最高です。

筑北村を雑穀の里に! チームで取り組む農業

自分で農業を行う傍ら『信州筑北 雑穀ファーム』というチームに参加しています。30~70代の農家が集結し、2015年の4月にスタートしました。みんなそれぞれ自分の田んぼや畑で農業をやりながら活動しています。
空と山に囲まれた見渡すかぎりの畑……この場所は最高です。今日は雪が解けたので、土作りのために集まりました。それから会議をして、やりたいことをどんどんピックアップしていきます。

現在は、ごま、えごま、たかきび、きび、紫米・赤米・緑米を栽培しているほか、アマランサス、キヌアを試験栽培し、主穀となるうるち米、もち米も無肥料無農薬や減農薬で育てています。
栄養価の高い雑穀はメディアで話題になることも多いですが、手間がかかるので、国産は少ないんです。また、ごまだけなど、少ない種類を扱うケースはありますが、幅広い種類を扱う畑が少ない。筑北村が「雑穀の里」と呼ばれることを目指して、多品目の雑穀栽培をしています。

収穫した雑穀は一種類での販売だけでなく、雑穀をブレンドしたものや、雑穀を入れたカラフルなお餅なども販売しています。玄米入り、きび入りなど、現在では10種類ほどのお餅のレパートリーがあります。
今後は、えごまやごまを絞って、えごま油やごま油も販売できたらなと考えていますし、パンケーキなども研究中です。まだ失敗ばかりだけど、それを糧にしていきますよ。仲間がいることで、交流や情報交換できるのがいいです。

ミニ農業体験、雑穀料理教室、仁熊の干瓢、菜園─これからやりたいこと

11月には、秋の収穫交流祭というイベントを行いました。雑穀ファームの圃場がある坂北地域の方々とコラボレーションした収穫祭です。自分たちの育てた野菜を自分たちが作ったドレッシングで食べるサラダなど、圃場での“田んぼランチ”を予定していましたが、当日はあいにくの雨。場所は地域の集会所になりましたが、地区内外から70名ほどの人が集まりました。

農業に興味がある人は多いと思うんです。民泊で行う農業体験よりもっと手軽な、観光のついでに気軽に参加できるような2時間程度のミニ体験農業をやりたいです。ほかにも、小さいお子さんがいるお母さんを対象にした雑穀料理教室もしてみたい。また、地域の名産品だったという夕顔で作る『仁熊の干瓢』を種から育てて手作りかんぴょうで昔ながらの料理を作ったり、山菜の菜園作りもしてみたいですね。

雑穀ファームにおいては、今後は若い人たちを主体にして、年寄りはアドバイスにまわりたいと考えています。就農の促進はお金だけで解決できる問題ではなく、人のサポートが大切です。遊休荒廃地を活用するために、行政と村民とが協力しあって成し遂げられたらいいなと考えています。

移住者だからこそわかる、筑北村のよさ

筑北村の環境は最高です。農業に適しているだけでなく、宝の山。県外から移住してきたからこそ、宝物がいっぱい眠っていると感じられるのだと思います。村の規模が大きすぎないのもいい。この小ささが魅力です。

生まれ育った高知をはじめ、大阪、東京でも生活してきましたが、筑北村が一番です。山や川といった豊かな自然があるし、高速道路もあるから交通の便もよい。農業以外にも、春は山菜、秋はきのこが採れる暮らしを楽しんでいます。自分たちの喜びをおすそ分けしたいくらいです。

筑北村を一言で自慢するなら「宝の山」。これに尽きます。環境も、食べものも、人も、宝物がいっぱいです。何でも採れます。個人的には、収穫の秋が一番好きです。

嶋田幸夫さん(71歳)

/出身:高知県 職業:農業 地域:坂北
約30年前に筑北村に移住。定年を機に無化学肥料・無農薬の農業を開始。2015年4月には村内外の仲間と『信州筑北 雑穀ファーム』というグループを立ち上げ、筑北村の急峻な山間地を生かした雑穀類の栽培・研究を開始。雑穀入りの餅の製造・販売など六次産業化にも力を入れている。

ちくほく・ほくほく体験

心が温まるのは、人の良さだよね。ある日、玄関にこっそりと野菜が置いてあった。野菜の種類から誰が作ったものかは予想できたので後で聞いてみたら「お宅の畑の出来が悪かったから」って。何も言わずに置いていってくれたんだ。それと、どこに行ってもおばあちゃんの漬ける漬物がおいしいこと、かな。

お気に入りちくほくスポット

家の上のほうにある、百姓の原風景ともいえる景色かな。
あとは、きのこがたくさん採れる秘密の場所(笑)。

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