ちくほくのひとVol.21召田 三枝子さん

やりたいことがいっぱい!
“地域の場”を作るコミュニティハウス

11月初旬の筑北村は、紅葉真っ盛りだった。役目を終えてひとやすみしている田んぼを横目に、美しく色づいた木々を眺めながらおだやかな坂を上っていくと、秋風がカラフルな風ぐるまをくるくると回していた。コミュニティハウスがオープンしているという知らせだ。「毎日活動しているわけではないので、オープン日には七色の虹の風ぐるまを出しています。それを見てふらっと訪ねてくる人もいるんですよ」と、召田さんはほほえむ。
コミュニティハウス『雀庵 いわっと』は、国道403号線から県道277号線(河鹿沢西条停車場線)に進み、東条川を越えた少し先にある。以前取材した古民家ゲストハウス『角屋』のそばだ。軒先には柿が吊るされ、おばあちゃんの家のような懐かしい雰囲気が漂う建物だが、足を踏み入れると、そこはれっきとしたコミュニティハウスだった。

写真撮影中、「恥ずかしいからそんなに近づかないで」と照れくさそうに笑う召田さんには、少女のようなかわいらしさが漂う。一般的に、65歳以上の人を「老人」や「高齢者」と表現するが、そんな言葉はそぐわないほど、アクティブでポジティブな女性だ。その召田さんがどのような気持ちでコミュニティハウスをオープンしたのか、お話を伺った。

[ 2020年12月25日更新 ]


不便さはあれど、住んでますます好きになった筑北村

生まれは豊科町(現・安曇野市豊科)です。47年前、山を越えて筑北村にお嫁に来ました。国鉄勤めだった主人とは顔見知りではありましたが、挨拶を交わす程度でした。「いいところに連れて行ってやる」という友人の誘いで訪れたのが、主人の家だったんです。雨降りの夜で、初めての筑北村は少し不安に感じていたことを覚えています。
豊科のほうがにぎやかではありましたが、田舎は好きなので、筑北村に住むことに何の抵抗もありませんでした。不便を感じたのは子育てのときですね。当時は運転免許を持っていなかったので、子どもが体調を崩したとき、電車やタクシーを乗り継いで松本方面の病院へ連れて行くのは大変でした。

筑北村は…当時は本城村ですが、住み始めてからますます好きになりました。何よりもうれしいのは常念岳(じょうねんだけ)が見れること。常念のふもとに生まれ、常念の産湯に浸かり、ずっとそばで育ってきたという思い入れのある山なんです。特に、夕焼けや朝焼けが美しいんですよ。その大好きな常念が自宅から見えるのが、本当に幸せです。

自由にやりたい。念願だったコミュニティハウスを開始!

西条駅前にある宅幼老所『茶の間』は、NPO法人立ち上げのときから携わっていました。経営に長けた人が経営を、経理に長けた人が経理を、私が現場をという感じで、得意分野を生かした役割分担で始め、たくさんの人の応援でやってこられましたね。
『茶の間』はNPOとして、補助金をいただいたりしながら運営していましたが、そういう場合、利用者の要望に応えたくても、いろいろな縛りがあってなかなか難しい。そんな経験を繰り返すうちに「もっと自由にやりたい」と思うようになりました。

自宅の隣の家が空き家になっていて、ときどき空気の入れ替えをしていたんです。すでに何度か借りられないかとお願いして断られていたんですが、豊科にある施設に見学に行ったことでコミュニティハウスをやりたい気持ちがどんどん強くなって、その日のうちにもう一度聞いてみたんです。そうしたら「いいよ」と。70歳で定年を迎えて、去年始めたのがコミュニティハウス『雀庵 いわっと』です。『いわっと』はこの地域の名前“岩戸”から、『雀庵』はスズメではなくて孔雀の“雀”から文字をいただいています。奈良のとあるお寺でお参りしたとき『由緒ある文字のおひとつを使わせてください』とお願いして、思い入れのある名前になりました。
大きく宣伝しているわけでもないですし、口コミで広がれば…と思っています。たったひとりのためにも『いわっと』は開きます。

自分が体験してよかったものを岩戸のみんなへ届けたい

『いわっと』で開いている講座は、自分が体験してよかったものです。興味のある講座があれば大町、安曇野、松本などに出かけています。ぜひ岩戸でも開催したいと思ったら先生に声をかけるんです。新しい講座との出会いも、講座仲間から教えてもらうことが多いですね。

『いわっと』で恒例となっているイベントは、伝筆(つてふで)、タイ古式マッサージ、満月食堂などです。講演会もいろいろやってきました。今後も作品展を開催する予定です。いま私がはまっているのは伝筆。そして、身体が待ち望んでいるのはマッサージ。最近、うちの孫も含め、岩戸で子どもが4人増えたので、母と子のヨガ講座もやりました。

満月食堂なんてイベント名にしてしまったので、食堂だと思って訪れる人もいるんですが、満月食堂は、月に一度、満月の日にみんなで集まって、旬のものを作って楽しむ会です。いまはコロナの影響でお茶会程度にしています。コロナ禍でどうしようかと毎月悩みますが、ちょっとおしゃれをしていらっしゃる人や楽しみにしてくださる人がいる、そういう集まりをなくしたくなくて。参加者はみんなマスクを着用してくれますし、消毒もしてくれます。月1回のお楽しみとして、みんなが笑顔になればやろうかなと思っています。

介護者家族会という、介護者同士が情報交換したり愚痴をこぼしたりする会も開催しています。コロナの影響で、役場関係のイベントはみんな中止ですが、コロナであっても介護は続きますから。介護をしている人が穏やかでいられるように、今後は音楽やマッサージなどの癒やしを取り入れながら充実させていきたいと思っています。手話講座も始めたいですね。英語と同様に、これから必要になると思いますから、若い人にぜひ憶えてもらいたいです。

時間がゆったりと流れる、癒やしの筑北村

家族には、好きなことをさせてもらって感謝しています。自宅は息子がリフォームしてくれましたし、今年2月には孫も生まれました。私もあのときあんなふうだった、こんなふうだったと思い出しながら、お嫁さんが子育てに奮闘しているのを見守っています。いまの時代に合った子育てがありますからね。

筑北村は何もない村です。「これ!」というものがない。それに、活気がないかなぁ。いまも、コロナとなったらすべて中止。何か工夫ができるのではないかと思います。今度、筑北村にスマートインターができるので、もう少し活気づいてほしいなと思いますね。
反面、こんなにいい村はないです。四季を感じられる暮らしが楽しめます。子育てにも最高です。台風や大雨・大雪などの自然災害が少ないですし、真ん中にあるので長野にも、上田にも、松本にも出やすい。ランチや映画を楽しみに出かけていますよ。

個人的には、子どもが生まれたことで、ここがこの子たちのふるさとなんだと感じるようになり、大切な場所だと思えるようになりました。いつでも帰れる場所として、このまま、自然を楽しめる状態のまま残ってほしい。時間がゆったり流れていて癒やされる。筑北村はそんな場所です。

これからやりたいこと? いろいろありますよ。2年前に生坂村で車椅子パラグライダーに乗ったんですが、すごく気持ちよかった。もう一度空を飛びたいです。楽器も何かやりたいな。死ぬまで楽しいことを考えて、最後は笑って死にたいじゃないですか(笑)。

召田 三枝子さん(72歳)

出身:長野県安曇野市
職業:コミュニティハウス経営
地域:本城地域 岩戸
西条駅前にある宅幼老所『茶の間』を退職後、2019年にコミュニティハウス『雀庵 いわっと』をスタート。コロナ禍での運営に試行錯誤しながらも、さまざまなイベントを開催している。自ら楽しむ姿勢が周りにも元気を与えてくれる、笑顔を絶やさない活動的な女性。

ちくほく・ほくほく体験

宅幼老所『茶の間』や『雀庵 いわっと』を立ち上げたとき、みなさんに助けていただいたことですかね。できてからも、残ったからと野菜を持ってきてくれたりする。そういう、人のあたたかさがあります。

お気に入りちくほくスポット

自宅から見えるアルプスです。高台から見るのもいいですよ。筑北村はとにかく景色がいい。ウォーキングツアーなども開催されているので、ぜひ参加して、体感してほしいですね。

このページの先頭に戻る