ちくほくのひとVol.24岡本久美江さん

猫たちと一緒に横浜から移転。
筑北村初の猫カフェには可能性がいっぱい

本日の取材先は猫カフェだという。こんなところに猫カフェが?と思うような道を進むと、これが猫カフェ?と思うような普通の家が目の前に現れた。しかし、玄関ではオーナーの猫が出迎え、猫部屋には思い思いに過ごす猫たち。確かに猫カフェだ。興味津々で近づいてくる猫もいれば、自分の時間を過ごしている猫もいる。スリスリ甘えてくる猫もいれば、かばんの上で眠ってしまう猫も。さまざまな猫がいるものだ。

「筑北村のタイムスリップしたような、『日本昔ばなし』に出てくるような景色に素朴さを感じます」と、オーナーの岡本さんは言う。
「以前、土にすき込むためのもみ殻くん炭を作ったんです。くん炭器にもみ殻をかぶせ、4、5時間燃やすんですが、それをしているときの時間の流れがすごくよかった。お芋を焼いたり、パチパチという音を聞いていたり。まあ、のどか(笑)。そんな時間がぜいたくすぎて、スマホを見る気にもなりませんでした」
何時間もスマホをチェックせずに過ごせる……筑北村には、そんなぜいたくな時間があるのだ。

横浜から猫を連れてお店ごと引っ越してきた岡本さんは、なぜ筑北村を選んだのだろうか。都会との暮らしの違いに戸惑ってはいないのだろうか。

[ 2021年9月21日更新 ]


筑北村初! 泊まれる猫カフェ『クラシコ』

飲食ができる「カフェ」と、猫と触れ合いながら里親を探す「猫部屋」、宿泊ができる「民泊」の3つを兼ねたお店です。漢字で書くと『暮らし古』。少し時代をさかのぼった、古きよき日本の暮らしを指しています。筑北村という場所的にも、昔風の、人と自然が共生できる暮らしに立ち返る、という思いを込めました。

猫部屋は6畳二間と縁側で、猫たちが自由に暮らしています。お客さまには時間制でご利用いただき、猫と遊んだり、触れ合ったりしていただけます。猫たちはすべて保護猫で、里親を募集しています。保護猫は、動物愛護センターからの犬猫の保護や新しい家族探しなどの活動をしている『ちばわん』から預かっていて、それ以外からの引き取りや預かりは行っていません。
横浜で営業していたとき「泊まりたい」という声が多かったので、民泊も取り入れました。猫との暮らしを体験していただけます。民泊は朝食のみがつくB&Bスタイル。和室&布団です。宿泊中は猫部屋が自由に使えます。希望があれば農業体験も可能です。

カフェスペースと猫部屋は完全に独立しているので、カフェとしてもご満足いただけるようなドリンクメニューを目指しました。おばあちゃん家にいるようにくつろぎながら、カフェラテやキャラメルマキアートなどの本格的なカフェドリンクを楽しめる店は、この辺りにはほかにないと思います。
現在はコロナ対策のため、予約貸切制で営業しています。警報が出ている地域からのご来店はお控えいただくほか、検温と手洗いをお願いしています。

予想以上にかかった引っ越しまでのスケジュール

犬の預かりボランティアをしていたときに、たまたま猫の預かりボランティアをする機会があって、大きくなった猫はもらい手がいなくて大変だと知ったんです。その経験から、成猫の里親を見つけるため、横浜で『里親募集型保護猫カフェ』を開業しました。
6年間営んでいましたが、このコロナ禍。自分の店でコロナが発生したら怖い、自分自身が罹ってしまうのも怖い、という思いがありました。猫たちを残して入院するわけにはいきませんから。「猫たちと一緒に避難できる家を探さなくては!」と移転を考えました。

移転先として購入できる家を探すうちにどんどん奥地へ(笑)。空き家バンクで一番手ごろな家があったのが筑北村でした。まったく知らない土地でしたが、場所を考慮する余裕はありませんでした。
長野県は雪国という印象でしたが、筑北村は雪が少ないと聞いて、2020年6月に初めて訪れました。駅を出て空気がおいしいと感じましたね。
検討していた家は、見学してみたら私には住めそうにありませんでした。そのときおすすめされたのが、高かったので候補から外していた今の家です。実際に見て即決しました。

私自身はすぐに引っ越したかったんですが、その段階では契約もできませんでした。この家には田んぼが4枚ついていたんです。不動産屋さんから「できるか」と聞かれ、「やったことがないからできない」と答えたら、販売できないと。筑北村役場から電話していたんですが、職員さんが「畑でもいいんですよ」と言うので、それならできると思うと伝え、やっと申し込みとなりました。その後も面談があったりと受け渡しまで何週間もかかり、最終的に引っ越してきたのは8月下旬です。横浜のテナントの期限が8月末だったのでギリギリでした。
リフォームもなかなか進まず、10月にやっと着工しました。キッチンの全面改装、オール電化への変更などを含め300万円ほど。予算より多くなってしまいました。

心に羽が生えたよう! 筑北村の暮らしはストレスフリー

田舎暮らしには抵抗も憧れもありませんでした。都会のごちゃごちゃした暮らしよりはいいかな、という程度です。猫たちは暮らしやすいようで、健康状態もよくなり、みんな太りましたね。体が弱く、アレルギーでかさぶただらけだったカブが、平気になりました。筑北村に来てからは体調も崩していないんですよ。

実際に暮らしてみて、想像していたよりも暮らしやすいです。心配なのは冬季の凍結くらいですかね。ご近所さんも親切ですし、買い物も車があれば大丈夫。以前から免許を持っていましたが、さほど運転はしていませんでした。そんな私でもまったく困りません。首都高に比べたら運転もずっと楽です。
不便なのは人も猫も、病院が遠いところ。内科と歯科は筑北村内にあるようですが、私は眼科にかかったので明科まで行きました。動物病院は安曇野まで、車で30分くらいです。よい病院を探しているところなので、もう少し遠くなってしまうかもしれません。

家の前に広がる筑北村の自然

筑北村の、のんびりとストレスなく暮らせるところに満足しています。横浜は猫カフェ激戦区なんです。店の経営もストレスになっていました。テナント費、光熱費、人件費などの経費を捻出するため、売り上げにとらわれていました。
いまは心に羽が生えたような感じです。店舗兼住宅なので家賃はありませんし、店の経営のことはまったく考えていません。もちろん、餌代や医療費などはかかりますが、筑北村に来て、自分自身にお金がかからなくなったんです。横浜にいればランチを食べに行ったり、宅配ピザを頼んだり、デパ地下でいろいろ買ってしまったり。でも、筑北村にはデパ地下はないし、外食するお店も少なく営業時間も短い。じゃあ家で何とかしよう、となりますからね。

始まったばかりの『クラシコ』は可能性がいっぱい!

プランターでプチトマトを育てた程度の経験しかありませんでしたが、自然農法で野菜を育てています。自然の営みが見えるところが楽しいです。半面、虫が多いので大変。玄関前に蛇がいたり、草刈り中に蜂の巣を発見したり。ワイルドな日々を過ごしています。
自然農法はもっぱらYouTubeで勉強です。ご近所さんは「トラクターで耕してやるよ」と言ってくれますが、自然農法では使わないんです。
自然農法の野菜は本当においしいですよ。いずれは通販で販売したいと思っています。

ほかに楽しんでいることといったら温泉。筑北村には3つあるので全部行きました。近いので8割は『坂北荘』ですが、『とくら』に行くときは夕食もそこで済ませたりします。
筑北村は空気と水がおいしくて、季節ごとに山菜も採れます。お米もおいしいです。もともと秋が好きですが、筑北村の秋もいいですよ。紅葉がきれいです。自分ではお米を作っていませんが、来年は水を張らない稲作に挑戦してみようかなと考えています。
友人からは「うらやましい」「楽しそう」と言われています。今はコロナがあって来てもらえませんが、収束したら、前のお店のお客さまや友人に遊びに来てほしいですね。庭でバーベキューをしたいです。

『クラシコ』はまだ始まったばかり。可能性はたくさんあると思っています。顧客のニーズに応えていきたいです。

泊まれる猫カフェ『クラシコ』

https://www.neko-cafe.info/

岡本久美江さん(51歳)

出身:神奈川県横浜市
職業:猫カフェ経営
地域:坂北地域・赤松
横浜で里親募集型保護猫カフェを6年間営業していたが、コロナ禍をきっかけに移転を検討。筑北村の空き家を利用し、民泊機能も備えた『泊まれる猫カフェ クラシコ』として2020年12月にオープン。農業未経験ながら、独学で自然農法にも励んでいる。

ちくほく・ほくほく体験

引っ越してきた当初から、ご近所のみなさんが野菜を持ってきてくれます。自ら積極的に人脈を作ろうとしなくても、この辺りは毎月25日に常会がありますし、コロナでイベントは少ないですが草刈などもあり、自然にご近所づきあいができています。

お気に入りちくほくスポット

お気に入りは日帰り温泉『坂北荘』。ひなびた……というと聞こえは悪いですが、田舎の、地元の人に愛される温泉です。通っていると顔見知りになる人も増えて、お付き合いにつながります。アットホームな感じです。

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