ちくほくのひとVol.03福田正隆さん

自然の中で生み出される、
使う人に優しい『ささなき道具店』の道具たち

西条駅前にある大堀商店の横で、子猫たちがミャーミャーと鳴いていた。 鶯といえば見事な鳴き声が有名だ。幼い鶯は冬のうちに鳴き方を習い、そのおぼつかない最初の鳴き声を「笹鳴き」と呼ぶらしい。その笹鳴きを屋号とする『ささなき道具店』への道のりで猫の笹鳴きに出会うとは、なんとも粋な偶然だ。

西条駅から車で進むと5分もしないうちに緑に囲まれ、さらに坂道をのぼると山の中に入る。訪れた本城地域上手山集落には家が3軒ほどしかなく、約20年前に移住してきた夫婦が愛情込めて育ててきた畑が広がっている。標高は約800メートル。北アルプスを望む気持ちの良いロケーションだ。

ささなき道具店は普通の一軒家で、一室には木の道具がずらりと並んでいた。金属製カトラリーの持つ冷たさを感じないせいだろうか、並んでいるだけでほんわかとあたたかい感じがするから不思議だ。

新しい場所に移動するのが好きで、何度も引っ越している福田さんは「また1から始めるのが楽しい。大家さんも変わるし、友達も増える」と言う。それでも名前も知らなかった筑北村への移住は、少し心配だったそうだ。 福田さんがなぜ筑北村を選び、今は筑北村でどのような活動をしているのかをお聞きした。

[ 2016年7月21日更新 ]


何もない、あっさりした“無”の場所が生み出す“もの”

アトリエ兼住宅で、木を使ったカトラリー(食卓用のスプーンやフォーク)など、道具を作っています。木を使って道具を作り出すのが仕事です。
機械室や工房用の部屋はありますが、天気の良い日にはよく外で作業をします。室内で出た木くずはゴミですが、外だと木を自然に返す、という感じ。無垢材を使った木工なので、自然に返せるんです。
工房を出たところに大きな桜の木があって、春は本当にきれいですよ。秋も紅葉がすてきです。直射日光は(木工で使う)木にとってあまりよくないので、太陽の動きに合わせて移動しながら作業するんです。
一軒家を借りていますが、ここは余計なものが何もない、あっさりした場所。そこでいろいろなものが生み出せるんです。おもしろいですよ。基本的に、ものづくりが好きなんです。

以前は穂高で作業していました。工房を開いたときは周りに何もなかったんですが、次第に家が立ち並ぶようになって。騒音問題が気になるようになってしまったんです。筑北村のこの場所なら、製造過程で音を出しても怒られません。今も朝早くから工事の音が響いていますが、誰も怒りませんよ。

名前も知らなかった筑北村への移住

親が転勤族だったので、子供のころから全国各地を飛び回っていました。主に育ったのは福岡県です。
ものづくり系の仕事が好きで従事していましたが、10年前、長野県の木曽に家具などを作る木工の学校があると知り、仕事を辞めて入学しました。訓練期間の1年間は、仕事をせず勉強に集中しましたね。学生時代に図工の授業で木工に触れたことはありましたが、本格的に木を使ったものづくりに触れたのは学校が初めてでした。

卒業後に知人と2人で工房を開いたのが長野県穂高でした。知人はもともと別の仕事をしていて木工に入ったんですが、木工だけでは食べていけなくて。元の仕事に力を入れることになり、工房を閉じることになってしまったんです。福岡に帰ろうという気持ちもあったんですが、たまたま筑北村の空き家バンクという、移住者を応援する制度を知って、紹介してもらいました。

この家はあっさり決めましたね。自分のイメージが実現できると思ったからです。工房や機械室が用意できるし、友達を呼んで泊めるにも十分な広さがある一軒家だし、周りの景色もよかった。
実際に生活してみて想像と違ったのは、静かすぎたことくらいでしょうか。「静けさが痛い」というのはまさにこのことか!と。引っ越してきたころは作業道具しかなかったので、キャンプ場にいるようでした。鳥の鳴き声とか、自然の音しか聞こえないんです!
本当に良いところですが、正直、冬は厳しいです。家の周りでソリ遊びが楽しめるくらいで(笑)。雪がなければどの季節も本当にすばらしいですよ。春の芽吹きも、夏の野菜も、秋の紅葉も。

人の役に立つ道具を作り続けたい

どこでもできる・どこでも行ける、というスタイルにしたいと考えるようになって、小さな機械を使うようになりました。大型機械に比べたら効率は落ちますが、丁寧さでは負けません。
使う人のニーズに合わせていろいろなものづくりにトライするのも、自分らしいかもしれません。作ったことのない道具や、「こういうふうに使うための道具がほしい」という思いだけがあってまだ名前は存在しない道具も、要望があれば応えたい。古い木製道具などのメンテナンスにも対応しています。

住宅家具を作っていたころは、納品後のお客様からくるのはクレームばかりでした。いまはクラフトフェアに出向いたり、移動販売をしたりしていることもあってコミュニケーションも楽しいです。お礼の手紙をいただくこともあります。「よかったよ」というお客様のリアクションはうれしいですね。それに、木はどんなにたくさん作っても“極めた感”がないんです。極めてやりたいという思いが尽きることはないですね。

今後も、いろいろな人の役に立つ道具を作り続けたいです。実際に使っていただいて「そう、これだよ!」と思ってもらえるような、使う人のニーズにマッチした道具を。いろいろな道具を作ってレパートリーを増やしていきたいです。
作家仲間も増えてきて、その中には筑北村のものを使っている人たちもいるので、いずれは筑北村の木を使った作品も作りたいと思っています。

移住者に優しく、慣れている筑北村

筑北村空き家バンク制度を知るまで、筑北村という名前すら知りませんでしたし、どこにあるのかもわかりませんでした。制度を知って調べていくうちに、筑北村は当時いた安曇野からも近く、松本にも長野にも出やすそうだし、そんなに不便ではないのかなと思いました。
また、移住するにあたって利用できる空き家に関する補助金制度があったり、移住応援ガイドブックがあったりと、移住者に優しく、なおかつ移住者に慣れている村です。あっさり地域コミュニティに入れました。皆さんに、自然に馴染ませていただいた感じです。
筑北村は、静かなところです。そして、とにかく“いい”。誰であっても、どんな人であっても、何かイイトコロが見つけられる、そんな場所だと思います。

ささなき道具店

http://www.sasanaki.com/

筑北村 空き家バンク

http://chikuhoku-akiyabank.jp/

空き家利用者向け補助金制度

http://chikuhoku-akiyabank.jp/howtouse.php#link01

筑北村 移住応援ガイドブック

http://chikuhoku-akiyabank.jp/howtouse.php#link02

福田正隆さん(41歳)

/出身:福岡県 職業:木工作家 地域:本城
筑北村空き家バンク制度を利用して約1年前に筑北村に移住。アトリエ兼住宅を構え、『ささなき道具店』という屋号で“道具”をテーマに活動している。アトリエ兼住宅で購入できるほか、県内外各地でクラフトフェアや移動販売を行っている。

ちくほく・ほくほく体験

私の住む上手山集落は開拓地で、少し前には10世帯ほどが生活していたそうです。しかし、街に下りてしまって空き家ができる。すると、そこを「山に返す」と言うんです。山という自然の一部をお借りして生活し、使わなくなったら山に返す。すばらしい考え方だなと思いました。

お気に入りちくほくスポット

このアトリエ兼住宅ですね。自然がきれいです。

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