ちくほくのひとVol.13田中俊行さん
善子さん

縁が新しい縁を生む。
筑北村は無限の可能性を秘めた楽園

今回の取材先は坂北地域中村地区長田本町。中古住宅を購入・改装してお住まいになっているご夫婦のもとへ向かう。
家の前に善光寺街道が通っている。その昔、善光寺へ参拝に向かう人たちが歩いた道で、北国西脇往還、北国西街道などと呼ばれている。青柳宿につながるこの道沿いは、いまでも宿場町らしい雰囲気を残す町並みがある。近くにある酒蔵の佇まいも、古きよき時代を感じさせてくれる。
田中さんご夫婦のお出迎えを受け、お宅にお邪魔した。「あっさりした甘さが夏に合うの」という畑で採れたまくわうりと、ご主人が入れて冷やしておいてくださったコーヒーをいただきながら、お2人の楽しい話に耳を傾ける。関西出身のお2人に、関西人の目に映る筑北村を覗かせていただいた。

[ 2018年9月1日更新 ]


あれよあれよという間にたどり着いた筑北村

2017年4月に移住しました。2016年の6月に私(善子さん)の母が亡くなり、相続などの手続きが終わって落ち着いた年末のころ、主人がポロっと「大阪にいる理由がなくなったね」と。反対する気持ちはまったく湧かず「そやね」と応えました。帰省していた信州大学に通う二男の「長野に来たら?」という言葉をきっかけに動きだし、1週間後には大阪にある長野県大阪事務所に行き、その翌日に移住セミナーに参加。あれよあれよという間に進んで、縁があるなという感覚でした。

大阪でも山の近くに住んでいたので、筑北村に来てもそれほど田舎だとは感じませんでした。山がきれいで景色もよく、環境がいい。ただ、家を見たときに……(苦笑)。空き家バンクで、条件の合う家を見つけて見に来たんです。正直なところ「住めるの?」と。ホラー映画のようでした。天井はシミと蜘蛛の巣だらけ、お風呂は朽ち果てている。とても即答できませんでしたが、なぜか断りの言葉も出ませんでした。
翌日、筑北村を歩いていたら仲介していただいた工務店の方とばったり会いました。「住めますか?」と聞いたら「住めるようにします」と言ってくださって。断る理由がなくなったので連絡先を交換して、大阪と筑北村で連絡を取りながらリフォームを進めました。中古住宅の購入と改装、引越し費用などを含めて一千万円弱。筑北村の空き家改修事業補助金制度を利用しました。

※筑北村では、空き家を購入又は賃借した方が、その空き家の機能を向上するための改修工事を行う場合に、その工事費用の一部を補助する制度がある

息子の春休み中に移住したかったので、かなりバタバタでした。最初のころは片付けで忙しくて。2週間くらい経ったとき、草取りに疲れてブラブラっと家の前の道を上って行きました。少し歩いてふと振り返ると、北アルプスが端から端まで一面に広がっていて、鳥肌が立つような感覚でした。そのときに「来てよかった」と。筑北村では思いがけないところでびっくりするような美しい景色と出会えます。

自分たちで育てた作物が、身体と心の栄養になる

移住後はのんびりと、自然に囲まれて穏やかな生活がしたいと思っていましたが、実際はのんびりしていませんね(笑)。いまは土いじりを楽しんでいます。
大阪では団地のベランダで野菜を育てていました。でも、できるのはひょろひょろっとした野菜。筑北村では庭と近所の方に貸していただいた畑で育てていますが、力強く成長しますね。勢いが違います。
大阪で畑を借りると10坪で1年間1万円のところもあるのですが、筑北村では使いきれないほど大きな畑を貸していただけます。草取りは大変だけど、行くたびに何かしらの変化があるから飽きないないんですよね。
いろいろな気づきがあります。スイカの模様は葉っぱに隠れるための保護色なのかなと、小さなスイカができて初めて思いました。もちろん、失敗もあります。去年の冬に庭にキャベツを植えたら、鳥に全部食べられてしまったんです。防鳥ネットをかけたらいいと教えてもらって設置したら、植えた20個全部収穫できました。
去年は近所の方が芽の出たじゃが芋をたくさんくださって、庭で育てました。息子は生まれて初めてじゃが芋を収穫したんですが、すごくうれしそうな顔をしたんです。久々に笑顔を見た気がします。

いまはやらなきゃいけないことに振り回されているところがあります。もう少し慣れてくれば、時間を上手に使えるようになるかなと思っています。

筑北村での生活は、ささやかな驚きの連続で楽しい!

冬の寒さや雪は覚悟していました。確かに寒いですが、寒かったら家にいるし、車もある。寒さは気になりません。周りがメイン道路なので、除雪もしていただけます。

善子さん:
びっくりすることはたくさんありますよ。冷蔵庫にキュウリが40本もあるとか(笑)。初めて食べるものも多いですね。夕顔やアケビのつるのほか、大阪では高価なのであえて購入することもなかったオクラやズッキーニなど、いろいろいただきます。食べ方も教えていただきながらおいしく味わっています。
声をかけていただいて、梅や椎茸などを採らせていただくこともあります。大阪ではすごく高価なものをタダでいただくことに戸惑いもありました。でも「無駄にするくらいならもらってほしい」と。無駄なく使う工夫をしながらありがたくいただいています。別の意味のぜいたくですよね。

俊行さん:
常会の席で、二十日大根を味噌で食べると教えてもらいました。丸ごと食べるという認識がなかったので驚きましたね。帰って妻に説明しても信用してもらえず、実際に食べさせてやっと認めてくれました。

善子さん:
大阪でのご近所付き合いは長かったので、どんな話し方をすればいいか分かっていました。筑北村の人たちのことはまだよく知らないので、緊張感があって面白いですよ。どんな人なのかを想像しながら接する楽しさ・メリハリがあります。

俊行さん:
大阪では、退職したおじさんの居場所はないんです。趣味やスポーツのサークル、仕事関係のOB会といったつながりはあるけれど、地域での居場所がない。でも筑北村では常会の集まりがある。慣れるまでは少し大変に感じるかもしれませんが、おじさんの居場所があるなと感じます。

人生すごろくのゴールはまだまだ先! やりたいことがいっぱい!!

筑北村は不便だろうと思っていましたが、思っていたよりも便利です。少し不便を感じるのは、電車の本数が少ないことくらいですね。野菜は畑やいただきものでまかなえるので、ときどき麻績のスーパーに行ったり、明科の眼科に行くついでに買い物したり。車で出かける楽しさも覚えたので、安曇野スワンガーデンなどにも出かけます。

大阪にいたときは、親を見送り子どもたちも自立して、自分たちの人生すごろくはあがりが近いと思っていました。会話も特にない。その状況をどうとも思わない。そんな日々を2年間過ごしていました。でも、筑北村に来たら、あれもしたいこれもしたい。毎日やることがいっぱい。夫婦・家族の会話が増えました。笑うことも増えました。いまは元気で長生きしなきゃいけないな、という気持ちです。
大阪に住む長男は移住に反対していましたが、去年12月に初めて孫と遊びに来てくれました。そば打ち体験をしたり、誰もいない聖湖で雪遊びをしたり。したことのない経験ができるぜいたくをよろこんで、次はリンゴ狩りのころに来たいと言って帰りました。

もう少し大きくなったら、飛行機で遊びに来る孫を松本空港へ迎えに行きたいです。夏休みを筑北村で過ごしてくれたらいいなと思っています。

人との縁が、新しい縁を生む。筑北村は人生の楽園

ここに来るとき、悪く言えば行き当たりばったりで、いい加減な気持ちだったかもしれません。たとえば「移住してスイーツの店を開きたい!」というような強い思いは一切なく、「息子と一緒に住める場所を探そう」という軽い気持ちでした。だけれど、来たからには楽しく暮らしたいし、何かしたい。筑北村は、そのやりたいことが、ひとつひとつ叶えられる夢の場所ですね。
筑北村にはいろいろなネットワークを持っている人がたくさんいます。自分ひとりでは何もできなくても、誰かに伝えるとそれが広がっていって、これもできる、あれもできる、となる場所です。人との縁が新しい縁につながって、陶芸教室、機織り、お茶……こんなこともできるの?という感じ。大阪では考えられないくらい手軽な金額でできるのも魅力です。

筑北村は、私たちにとって人生の楽園です。大阪にいたら、日々の生活にただ流されていたと思います。受動的ではなく、自分から何かをしなければだめだなと感じることができました。
山椒を買い求めて道の駅に行ったんですが、ありませんでした。でも、2時間後に「売ってくれる人が見つかった」と電話が来て、その後すぐご本人から連絡があり、自宅まで来ていただきました。こんな風に、1歩踏み出せばいろいろなことに出会える場所なんです。

「不便さを楽しむことができたら、人間にとって一番の幸せ」と聞いたことがあります。でも筑北村で不便さを感じていない。いま感じている幸せは一番じゃないのかしら?と思うほど、筑北村は毎日楽しく、不便さのない場所です。Amazonも届きますしね(笑)。

田中俊行さん(64歳)・善子さん(63歳)

出身:大阪府/兵庫県 職業:無職/無職 地域:坂北地域
ご夫婦ともに元教員。退職後、大学に通う二男の住む信州への移住を決め、筑北村の空き家を中古で購入しリフォーム、家族3人で暮らす。のんびり穏やかな田舎暮らしを予定していたが、土いじりや収穫などの楽しみに目覚め、生き生きとした田舎暮らしを満喫中。

ちくほく・ほくほく体験

俊行さん:去年、秋のお祭りのとき、お酒を飲みながら、花火を真下から見たことですね。
善子さん:学童保育の仕事をさせていただいたこと。忙しかったけれど、終わったときの喪失感がすごかったんです。大変だったけれど、すごくいい時間をもらっていたなと感じます。

お気に入りちくほくスポット

善子さん:碩水寺の少し下のカーブから見る、晴れた日の北アルプスが好きです。
俊行さん:坂北カーブで見る電車ですね。鉄道友の会に入っている鉄道好きなんです。

※道の駅さかきた周辺の、線路が緩やかにカーブしているあたり。写真映えのする電車景色が撮れる鉄道ファン人気のスポット

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